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最高裁判所大法廷 昭和28年(あ)5222号 判決 1957年4月03日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人中川鼎の上告趣意について。

憲法二二条一項は職業選択の自由について規定しているが、それは無制限のものではなく、公共の福祉に反しないという制約の存することは同条項の規定で明らかである。そして、犯罪の予防、鎮圧乃至検挙を容易にするために採られる必要な措置は、結局、国民生活の安寧をはかる所以のものであるから、かかる措置を採ることが、とりもなおさず憲法二二条一項にいわゆる公共の福祉を維持することになることは既に当裁判所判例の趣旨とするところである(昭和二六年(あ)四六二九号同二八年三月一八日大法廷判決、判例集七巻三号五七七頁参照)。

いま、昭和二六年八月一〇日広島県条例三九号「金属屑業条例」の各条を通覧するに同条例は広島県下における金属類の盗犯その他の犯罪を防止し、或は、それら犯罪の検挙を容易ならしめるために、制定されたものであることが認められる。所論の同条例一〇条二〇条二三条も、結局、他の規定と相俟っていわゆる公共の福祉を維持するための必要な措置として規定せられたものであることは疑いのないところである。してみれば、右の各条がたとえ所論のように営業の自由を制限することになるとしても、それは公共の福祉を維持するために必要にして、かつ、やむを得ないものであるといわなければならない。従って、同条例一〇条二〇条二三条の規定はいわゆる営業の自由を制限するが故に憲法二二条一項に違反するとの所論は採用し得ない(なお、同条例一〇条について検討しても、同条は金属屑業者に対してその営業を制限したもので、該規定自体が未成年者の法律行為能力に関する民法四条、五条と抵触しているとは認められない。その故に、同条は地方自治法二条、一四条に違反し無効であると認めるべき理由はない)。

よって、刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 高橋潔)

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